中丸謙一朗著「車輪の上」
[木へんに世]と書く「えい文庫」の一冊。
(執筆当時の)幕内・十両力士の中でサイクリングを趣味とするのが2人なのを「角界で2人だけ」と誤解して、自転車2人乗りの話題の前フリにするなど、いくぶん強引なところも見られますが、いいところついてる箇所もかなりあります。
特に、77ページの
やはり、あくまでも自転車は孤独であり、人間の「個」の風を運ぶはかなき物体だからです。
という指摘。
ついでにいえば、自転車は交通の「流れ」に乗るのを(歩行者主体の速度、クルマ主体の速度、どちらに合わせるのも)不得手にしていること。それを意識すればかなり操作に神経を使うこと。それ自身はほとんど音を立てないかわり、上記の事情から運転者の「聴く力」が要求される乗り物であること。…などが採りあげられていればなあ。
でも、著者の「表現したい!したい!」という能動性が全体から湧き上がってくる文体は、ある意味爽快です。読んでる途中は「この人自転車に向いてるかなあ」と思ったのですが、読後感はとても良い。
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